東アジアの古典演劇と近代

研究者:西村  聡(代表・伝承文化資源部門-教授)
          上田  望 (文化資源情報部門-教授)
          呉   真 (文化資源情報部門-客員研究員)
          黒田 譜美 (金沢工業高等専門学校-講師)
          施  凱盛 (元福井大学非常勤講師)
      

目 的:日本の古典演劇と中国の古典演劇が近代への移行期においてどのように変容し、また伝統を継承したか、それぞれの研究成果を比較対照することで、互いに視野を広げて新しい研究方法を模索し、新しく研究対象を開拓することをめざす。日中の比較だけでなく、古典文学と近代文学、文学と歴史・美術・音楽など様々な領域の専門家による共同研究が必要であり、東アジア古典演劇研究会及び公開講演会の開催を通してネットワーク作りを進めてゆく。さらに、日本の古典演劇に関しては地域の資料の活用を図り、中国の古典演劇に関しては動画や画像資料の整理を進め、東洋文庫のDBのプラットホームを利用して世界に向けての情報発信と学術知見の共有を目指す。

概 要:東アジアの国々が近代化するなかで、古代、中世、近世に淵源を持つ伝統的な演劇がどのように変貌を遂げたのか、そして古典演劇へと昇格していく「経典化」という現象に着目し、文献研究とフィールドワークの両面から、対象をこれまでの日本、中国だけでなく東アジアにまで拡大して調査研究を実施する。日本の古典演劇に関しては、金沢市立玉川図書館及び前田土佐守家資料館所蔵の史料を調査し、翻刻作業とその成果に基づく幕末・維新期加賀藩能楽史年表を作成する。また、『梅若実日記』から宝生九郎及び前田斉泰とその周辺に絞り込んで必要な事績を抽出し、その成果に基づく明治初期宝生流能楽史年表を作成する。さらに、古典演劇の役者と非体制的芸能の芸人の生活と意識の変化について、泉鏡花の小説を参考に分析する。中国の古典演劇に関しては、中国各地での現地調査を通じて演劇の興行形態や支持組織、劇場、観客層などに関する歴史資料の発掘、代表的な古典演劇作品の上演映像や画像資料の収集を行い、さらに演劇脚本の精緻な読解・翻訳の作成を通じて主題や思想を掘り下げ、古典に求められていたものを明らかにする。日本、中国以外の国の演劇については、センター外共同研究者とも協力しながら調査を進める。最終的には19世紀以降、近代化によって伝統的な演劇を取り巻く環境の変化が、演劇に対するまなざしや需要を大きく変え、19世紀以降、各国の伝統的な演劇が古典演劇となっていくプロセスを解明する。

 成 果:平成28年度は西村が9月15日に東アジア古典演劇研究会の第4回として公開講演会「日本古典演劇と近世・近代―その研究対象と方法をめぐって(2)―」(金沢大学サテライトプラザ)を開催した。村上尚子(石川県立美術館学芸主査)「道真像の変遷―菅丞相・雷電・来殿・妻戸における面と装束より考える―」、中尾薫(大阪大学准教授)「野口米次郎と伊藤道郎による日本再発見とその時代」の2本の講演とデイスカッションにより、能作品の中の菅原道真像の描き方とその変遷、またそれらに着用する面・装束の由緒を複線的に追跡し、また両大戦間に海外で評価された野口米次郎と伊藤道郎は能に対してどういう関心を持ち、そのことが海外でどのように受け止められたかを詳細に知ることができた。

 上田は中国古典演劇の経典化のプロセスに関する研究を進め、受託している基盤研究(C)「梁山伯祝英台伝説の文化空間―中国四大伝説の生成と伝播に関する包括的研究」の現地調査を実施し、その成果の一部を「「梁山伯と祝英台」物語の文化空間」(西村聡編『言語文化の越境、接触による変容と普遍性に関する比較研究』(金沢大学人文学類刊、2017年1月、pp45-54)として公表した。また、田仲一成博士より中国戯曲音楽テープの電子データ(359箱、236種)などの寄贈を受け、東洋文庫研究員として中国縁辺地区祭祀芸能データベースの構築に引き続き取り組んだ。

 このほか、西村・上田は東アジア古典演劇研究会の研究活動の一環として、本学人間社会環境研究科および国際文化資源学研究センターと、中国の中山大学の中国古文献研究所および非物質文化遺産研究中心とが中国の民俗芸能、戯曲・俗文学の研究交流に関する5年計画の協定を締結するのに尽力し、今後日中両国の古典演劇に関する共同研究を推進していくこととした。