異分野融合研究の強化による新たなマヤ文明研究パラダイムの構築

研究者:中村 誠一(代表・形態文化資源学部門-教授)
          鈴木真太郎 (形態文化資源学部門-客員研究員)
          村野 正景 (形態文化資源学部門-客員研究員)
          市川  彰 (形態文化資源学部門-客員研究員)
          半田 高弘 (凸版印刷株式会社・係長)
          寺崎秀一郎 (早稲田大学文学学術院・教授)
          塚本健一郎 (カリフォルニア大学リバーサイド校)
          宮﨑  彩 (東京大学大学院博士後期課程3年)
      

目 的:国際文化資源学研究センター中米ユニットは、それぞれが本務所属先の研究機関を持つ構成員が「中米のマヤ文明」というキーワードのもとに集まった研究ユニットで、各自がマヤ文明研究の国際的な最前線の舞台で独自の調査研究を行っている。特にセンターに所属する若手研究員は、国際的な評価も高く、我が国におけるマヤ文明研究の将来を担っていく逸材が集まっている。マヤ文明研究はその嚆矢より欧米諸国に学術資料が集まり、地理的な近さもあって特にアメリカの大学がその研究をリードしてきた。しかしながら、中米ユニットの代表研究者が19世紀以降のマヤ文明研究の2大焦点であるグアテマラのティカルとホンジュラスのコパンという二つの世界遺産で、過去35年近くにわたり独自の発掘調査を展開し資料を収集し続けた結果、特にコパンでは、ハーバード大学を抜き、ペンシルバニア大学に次いで世界で2番目の発見物(発掘調査出土品)登録数を数えるまでになった(ホンジュラス国立人類学歴史学研究所公式データベース)。金沢大学本部もこれまで大学の独自資金を投入して2012年にティカルに、そして本2017年にはコパンにリエゾンオフィスを開設し、国際拠点の形成を進めている。このように、着々と欧米諸国の研究機関に肩を並べる中米ユニットでは、伝統的な考古学が行う発掘調査や修復保存に加えて、過去3年間に生物考古学的アプローチ(安定同位体やDNA分析を通した古代の移民動態の研究)、革新的新技術の応用や自然科学的アプローチ(蛍光X線分析による黒曜石産地の同定を通した古代の政治経済研究、3次元デジタル計測データやバーチャル・リアリティ(VR)技術による古代文明のデジタルアーカイブと可視化の研究)、文化資源学的アプローチ(世界遺産の保存と活用の研究、パブリックアーケオロジー、世界遺産周辺コミュニティ住民の生活向上研究、持続可能な開発と文化遺産保全の相互関連メカニズムの解明、コミュニティ博物館の研究)等を駆使して異分野融合研究に取り組んできた。その結果、平成28年度まで実施された「分野融合研究を通した新たなマヤ文明史の再構築」という課題は、2016年12月10日に金沢大学サテライトプラザで開催された総括シンポジウムでの発表、およびその成果を『金沢大学 文化資源学研究』第16号として日・英・西の3ヵ国語で出版したことにより、一区切りがついた。

【今後の調査研究課題】

そこで今年度より、金沢大学が研究指針として推進する異分野融合研究をマヤ文明研究においてより発展させることを目標に、新たな課題を設定し3年間の研究期間を設けた。また、日本人若手マヤ研究者の中でも国際的に活躍している人材1名(カリフォルニア大学リバーサイド校准教授 塚本健一郎氏)と日・英・西の3ヵ国語の運用に長け、メキシコをはじめ中南米諸国を対象とした文化資源学分野の研究で将来が期待される博士後期課程の院生1名(東京大学大学院博士後期課程3年 宮﨑彩氏)を追加でユニットメンバーに加え研究体制の充実を図ることとする。

具体的な活動としては、2017(平成28)年度には、JICAや外務省と連携してその調査研究範囲をコパンの影響が及んだエルサルバドルやメキシコにも拡大する。さらに、凸版印刷や早稲田大学と連携して、リモートセンシングや地中探査レーダーによる未知の遺跡や遺構探査、VR技術やドローンからの写真撮影を使った文化遺産3D化の推進を産学官連携で行う。グアテマラのティカル国立公園では、JICAと連携しコミュニティ住民を対象としたリーダー育成研修やグループの組織化の研究を、また、ユネスコと連携し北のアクロポリスの発掘調査や修復保存活動を行う。ホンジュラスのコパンのマヤ遺跡においては、現地政府資金を活用して遺跡の発掘調査や修復保存活動を展開する。このように中米ユニットでは、本学がリエゾンオフィスを置くグアテマラのティカル国立公園および隣国ホンジュラスのコパンのマヤ遺跡という二つの世界遺産を中核の調査研究対象としつつ、徐々に調査範囲や調査地域を拡大すると同時に共同研究の連携先ネットワークを広げ、異分野融合研究を格段に発展させつつ、新たなマヤ文明研究のパラダイム構築行おうとする。

概 要:平成28年度から継続する事例研究

① コパンで研究代表者が過去指揮した二つの大型プロジェクト出土の古典期前期の人骨の安定同位体比の分析事例を増やし、王朝初期において外来集団の入植地があったという代表者らの仮説(Price, Nakamura et. al 2014)を補完 / 検証する。結果を他の研究成果と組み合わせて、コパン王朝成立前後の時期に外来集団がその歴史に与えた影響を明らかにする。

② コパンの周縁地域であったラ・エントラーダ地域で研究代表者のチームが1986年~1997年までのいくつかの考古学プロジェクトで発掘した黒曜石製石器およびウスルタン式土器、さらにはモザイク石彫に対して蛍光X線分析を行い、産地、材質、特徴などを同定し、それらの分布域や器種・技法等との相関関係を調べ、当時の政治経済構造について考察する。

③ グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルにおける考古学調査を中心とした異分野融合研究プロジェクトを発展させる(北國新聞、北陸中日新聞2016年12月11日付報道)。 (参考文献) Price, T. Douglas, Seiichi Nakamura, Shintaro Suzuki, et al. “New isotope data on Maya mobility and enclaves at Classic Copan, Honduras” Journal of Anthropological Archaeology 36 (2014) pp.32-47 平成29年度から行う事例研究

④ 宇宙システム開発推進機構や凸版印刷との共同研究により、最新鋭の日本の衛星によるリモートセンシングを使って、中米のジャングル地帯に眠る文化資源探査を行う。また、VR技術やドローンからの撮影写真を使ってティカル北のアクロポリスの3D化を行う。

⑤ JICAと連携しコミュニティ住民を対象としたリーダー育成研修やグループの組織化の研究を行う。国際文化資源学研究センターが実施した課題別研修(2014~2016)のフォローアップ研修をエルサルバドルで行う。

⑥ ユネスコや現地政府と連携し、ティカル・北のアクロポリスの発掘調査や修復保存活動、コパンの発掘調査や修復保存活動を行う。