生と死の表象に関する文化史的研究

研究者:森  雅秀 (代表・文化資源情報部門-教授)
           中村 誠一 (形態文化資源部門-教授)
           矢口 直道 (形態文化資源部門-准教授)
           西本 陽一 (伝承文化資源部門-教授)
           井田 克征 (文化資源情報部門-研究員)
           大羽 恵美 (文化資源情報部門-研究員)
 

目 的: 人文学の領域において、生と死はつねに根源的な問題として、あらゆる分野と関係を持つ。文化資源学もその例外ではない。しかし、文化資源学からの生と死へのアプローチは、死生観や生きがいといった観念的な考察にとどまらず、つねに具体的な事例を通しての分析が求められる。生と死が何らかの形を取って表されることを手がかりとして、その形、すなわち表象を対象とした実証的な研究が求められるのである。本研究では、文化資源学を構成するさまざまな領域、すなわち、考古学、美術史、建築史、文化人類学、芸能史、宗教学などが、その領域を越えて、生と死に対して学際的なアプローチを試みる。生と死がどのような形を取り、それがどのような特徴をそなえ、時代や地域によってどのように変化したかを、通時的、通文化的に考察する。人間にとって生とは何か、死とは何かを考察するための新たな視点を提供する。

概 要: 生と死の表象に関して、以下の5つのアプローチを行う。

(1) 生と死に関する書誌情報の整理:先行研究の把握のために、生と死に関する既発表の書籍、論文、レポート等を網羅的に収集し、その書誌情報を整理する。(2)以降のそれぞれのアプローチのための基礎資料として活用する。

(2) 考古学的アプローチ:宗教的施設や墓制、死者儀礼や祖先崇拝などに関する考古学的遺物から、とくに死にかかわる具体的なイメージを集成する。

(3) 美術史的アプローチ:あらゆる文化圏において、死は美術の重要なテーマのひとつである。絵画、彫刻などの造形作品を通して、人々が死をどのように表現したかを明らかにする。

(4) 建築史学的アプローチ:死とかかわる建造物、すなわち寺院、教会、墓所、祭礼の場などから、死そのものや、死後の世界観などを明らかにする。

(5) 文化人類学的アプローチ:死と関わりを持つ人々の営みを、さまざまな文化に探り、その具体的なあり方を記録し、分析する。そのために、葬送やイニシエーションなどの儀礼、道具や生活用品などの民族的資料、さらに芸能などのパフォーマンスを対象としたフィールドワークを実施する。

 これらのアプローチから得られた成果を、定期的に開催されるセミナーにおいて発表し、構成員の間で情報を共有する。最終的には、学外の研究者を招聘したシンポジウムを開催し、研究成果をとりまとめるとともに、文化資源学からの生と死への学際的な研究のモデルを提示する。

 成 果: 平成28年度は、とくに日本の宗教に見られる生と死の表象に焦点を当て、リサーチ・プロフェッサーであるロンドン大学SOAS日本宗教研究センター長のLucia Dolce氏を招聘し、共同研究を実施した。主な活動は以下の通りである。

◎国内外の研究者からなる研究グループの立ち上げと、今後の研究計画(外部研究資金への申請含む)、研究成果の公表母体となる出版物等に関して、具体的な協議を進めた。

◎石川県、富山県を中心に北陸の宗教に関するフィールドワークを実施した。石川県においては、金沢市内の真成寺(日蓮宗)、雨宝院(真言宗)、能登地方では永光寺(曹洞宗)、妙成寺(日蓮宗)、正覚寺(真言宗)、富山県では本法寺(日蓮宗)、立山博物館などで実施した。本学では、センター教員以外にも谷川竜一(新学術創成研究機構)、黒田智(学校教育学類)と、また学外では阿部泰郎(名古屋大学)、松本郁代(横浜国立大学)、門屋温(早稲田大学)、原口志津子(富山県立大学)などと合同で調査を実施し、当該分野関連の資料収集と研究基盤の形成を進めた。

◎2017年7月27日に国際文化資源学研究センターのフォーラムにおいて「中世日本仏教研究再考」というテーマで研究発表を行い、学内外の研究者と研究成果の共有を図った。 

 一般向けの刊行物として、研究代表者による以下の書籍が刊行された。

森雅秀『仏教の女神たち』春秋社、2017年、272頁。 仏教パンテオンで重要な位置を占める女神をテーマに、その信仰、美術、儀礼、神話などを分析し、女神が有する文化史的意義を明らかにした。