中央アジアにおける旧ソ連崩壊後の文化芸術環境の変遷

研究代表者:浅井 暁子

期間:2015年4月〜2016年3月

 有形・無形の文化遺産に新たな価値を見出し「文化資源」として保護・継承、利活用していくには、文化遺産に関わる組織、人材を取り巻く環境をよく理解しておくことが必要である。本研究の目的は、旧ソ連邦時代に建設された博物館や劇場の運営実態、ならびにそれらの組織に従事する学芸員や演奏家集団などを取り巻く環境について、旧ソ連邦崩壊後から現在に至る変遷を明らかにすることである。このことにより、独立後、国家としてのアイデンティティを確立するため、それぞれの国の文化政策がどのような方向性をもって進められてきたのか、その成果と影響について考察することが可能となる。この研究の背景としては、研究者2名がこれまで共同研究・調査を行ってきた中央アジアの国々において、旧ソ連時代に築かれた文化環境のハード・ソフト両面における社会的認識の変化が顕著に見られることがあげられる。両研究者がこれまでに収集した資料、またこれまでに構築したネットワークを利用して、現在の状況を把握・共有し、独立後の各国の文化政策を客観的に評価する。

文化資源としての言語の時空間変異研究

研究代表者:岩田 礼

期間:2015年4月〜2017年3月

 近年、中国をはじめとするアジア諸国においては、言語を文化資源の一つとしてとらえ、国家機関のイニシアチブによって組織的に調査・研究を進める方向性が強まっている。これに対して、我が国では個々の研究者の研究は総体として厚みがあるものの、それらを統合して国際的に研究を発信していく力はなお弱い。本課題では、日本を含むアジアの言語を対象とし、民衆が話す規範化されない音声言語に関してフィールドワーク及び文献調査によるデータを蓄積しながら、集積したデータをデータベースなどの形式で内外に発信する。また、従来構築してきた日本及び中国の人的ネットワークを活用して、各種講座、国際研究集会等を開催することにより、研究拠点を形成することを目的とする。

中国縁辺地区祭祀芸能DBの構築

研究代表者:上田 望

期間:2015年4月〜2018年3月

 急速な近代化に伴い、中国の伝統芸能は不可逆的な変貌を遂げつつある。特に巫術と関わりのある祭祀 儀礼や芸能は文化政策の影響を受けて消長が著しい。研究代表者が1990年代から調査・収集してきた貴州・雲南・江蘇・浙江などの祭祀芸能にはすでに大きく姿を変えてしまったものもあり、それらの写真・動画資料を、東洋文庫で中国祭祀演劇関係写真資料DBを公開している田仲一成氏の指導と助力を得、同DBのプラットフォームを利用して中国縁辺地区祭祀芸能DBを構築し、中国の伝統芸能研究者が情報を共有・交換できるネットワークを作り上げたい。

ルネサンス以前における壁画の描画技法および図像の研究

研究代表者:大村 雅章

期間:2015年4月〜2016年3月

 ルネサンス期以前に描かれたヨーロッパの壁画について、描画技法や工芸的技法、図像学的な観点から複数年をかけて調査、研究を行う。今年度は、調査作品のヨーロッパ地域の特定や作品特性などを中心に対象を絞り、それについての資料や情報の収集および整理期間にあてる。ビザンティン美術を中心に、壁画や板絵、立体造形物や書物の挿絵などを調査、研究する。本課題では特に、ルネサンス期以前の12世紀から13世紀に描かれた、ビザンティン時代の様式を持つ壁画群を主に焦点を当てる。特にルネサンス期に描かれている多くのフレスコ壁画であるブォン・フレスコ画技法とは違う方法で表現されている可能性がある。本調査および研究では、イタリア・ルネサンス期以前の壁画技法は、東方正教会と西方正教会の流れを汲む絵画技術が、二つ混在した時代であると推測できる。こうした描画および工芸的技法の実証的な解明と、図像学的な解釈や様式などを比較検証することで、ヨーロッパ絵画の源流と時代を軸とした変遷について考察する。

生活用品から見たライフスタイルの近代化とその国別差異の研究

研究代表者:鏡味 治也

期間:2014年10月〜2017年3月

 本研究は、世界各地の衣食住にかかわる生活必需品の調査を通じて、その変化が伝統的生活様式から近代的生活様式への変化にいかに連動し、またその近代的生活様式が世界的な共通性を示しつつ、なお国ごとの差異をどのような面で保持しているかを検証し、近代化の一般性と国ごとの個別性およびその要因を考察することを目的とする。生活様式の変化は経験として語られ、観察で確認はできるが、客観的なデータにはしにくい。本研究はそれを生活用品リストという客観データで裏付けようとする点に特色がある。本研究では共同研究者が各自のフィールドワークで集めたデータを持ち寄り、生活様式の近代化がどのような品目により現れやすいか、またその共通性と国別差異について検討する。その結果、生活様式の近代化の指票となる生活用品を明らかにし、ひいては近代的な生活様式の標準形を提示することができるようになる点に本研究の意義がある。

文明と王権

研究代表者:中村 慎一

期間:2015年4月〜2018年3月

 本ユニット課題の目的は、世界の様々な地域において王権、国家、都市、文明がどのようなプロセスを経て生成してきたのかを比較考古学的に検討することにある。東アジア、東南アジア、西アジア、中米についてはセンター内の研究者がそれぞれ担当し、センター教員ではカバーしきれない地域、例えば、エジプト、南米、ヨーロッパ等については学外の専門家を迎え、研究を充実させていく。  検討すべき課題は多岐にわたることから、長期的な視野で研究を継続させていく必要がある。今年度は 「王権とシンボル」をテーマに掲げて研究会を複数回開催し、毎回、各地の事例報告をもとに討議を進める。

文理融合研究を通した新たなマヤ文明史の再構築

研究代表者:中村 誠一

期間:2015年4月〜2017年3月

 マヤ文明はアメリカ大陸に栄えた古代文明の中でも、唯一、完全な文字体系を持つ古代文明であるため、一般に碑文等の文字資料から詳細な歴史復元が可能であると考えられている。しかしながら、碑文に刻まれているのは支配者にとって都合の良い事柄だけであり、内容自体が政治的なプロパガンダである可能性もある。これに対して、埋葬人骨の歯のエナメル質から抽出されるストロンチウムや酸素、炭素といった安定同位体比の分析により古代人の移動を同定することで、文字資料からは得られない「人の移動」がマヤ文明史の細部の歴史動態にどのような影響をもたらしたかを明らかにできる可能性がある。また、金属器を持たなかった古代マヤ社会において重要な石材であった黒曜石を素材とする石器を蛍光X線分析にかけて原石の産地同定を行い、産地別の黒曜石製石器の分布を研究することにより、当時の政治経済の構造が明らかになる可能性がある。このような研究から明らかなように、中米ユニットでは、金沢大学が研究・教育拠点を置くグアテマラのティカル国立公園およびホンジュラスのコパンのマヤ遺跡という二つの世界遺産における文理融合研究の推進により、新たなマヤ文明史の再構築を行おうとする。

日本国内の民謡音源資料のデータベース化と検索システムの構築

研究代表者:森 雅秀

期間:2015年4月〜2017年3月

 民族芸術研究所が所有する日本全国の民謡に関する音声資料をもとに、民謡に関する学際的な共同研究を実施する。文化庁の主導のもとに1980年代を中心に全国で採集された民謡の音声データにもとづき、その内容の確認、文字データにもとづくメタデータの整備、両者を統合するデータベースの構築、効率的な検索システムの開発などを行う。最終的には、日本の民謡に関する最も充実したデータベースとして、国内外に公開することを目指す。あわせて、日本の民謡を中心とした学際的な共同研究を進め、文化資源としての日本の民謡の全体像と意義を明らかにする。日本国内のみならず、国際的な標準となり得るデータベースを整備し、関係する研究者がそれを有効に活用することで、民謡を中心とする音楽研究の進展に寄与することが期待される。研究期間中に、センター内外の研究者によるワークショップとシンポジウムを開催し、その成果を一般に公表する。

生と死の表象に関する文化史的研究

研究代表者:森 雅秀

期間:2015年4月〜2018年3月

 人文学の領域において、生と死はつねに根源的な問題として、あらゆる分野と関係を持つ。文化資源学もその例外ではない。しかし、文化資源学からの生と死へのアプローチは、死生観や生きがいといった観念的な考察にとどまらず、つねに具体的な事例を通しての分析が求められる。生と死が何らかの形を取って表されることを手がかりとして、その形、すなわち表象を対象とした実証的な研究が求められるのである。本研究では、文化資源学を構成するさまざまな領域、すなわち、考古学、美術史、建築史、文化人類学、芸能史、宗教学などが、それぞれの領域を越えて、生と死に対して学際的なアプローチを試みる。生と死がどのような形を取り、それがどのような特徴をそなえ、時代や地域によってどのように変化したかを、通時的、通文化的に考察する。人間にとって生とは何か、死とは何かを考察するための新たな視点を提供する。

考古学と現代社会

研究代表者:吉田 泰幸

期間:2013年10月〜2017年3月

 本ユニット課題の目的は、考古学と現代社会の関係を「考古学(考古学的発見・資料・研究・研究をもとにした実践的活動を含む)は現代社会にどのような影響を与えているか」という視点から考察し、「文化資源学としての考古学」の体系化に寄与することを目的とする。考古学と現代社会の関係についての考察はこれまでも行われてきているが、「社会の変化に考古学がどのような影響を受けたか」という視点が支配的であった。本ユニット課題はこうした視点に基づく先学の重要な成果を重視しつつも、上記のように考古学を主語として現代社会との関係を捉え直すことに大きな特徴がある。この分析視点からは、考古学的発見がどのようなプロセスで「文化資源」として変容していくかについて、重要な示唆が得られるとともに、根強い啓蒙思想に基づく学問的権威の側からの一方通行の文化財保護・活用とは異なる、考古遺産マネジメントの理論的基盤形成への貢献が期待できる。

国立民族学博物館所蔵・鹿野忠雄収集台湾考古資料の研究

研究代表者:吉田 泰幸

期間:2015年4月〜2017年3月

 鹿野忠雄は1920〜40年代に、台湾を中心に東南アジア各地で広範な研究調査活動を行った博物学者である。その業績は昆虫学、地理学、文化人類学、考古学と多岐にわたっている。鹿野の考古学的調査の一端は『東南亜細亜民族学先史学研究』(1946年)で知ることができる。鹿野が台湾各地の遺跡で調査収集した考古資料は、国立民族学博物館の「瀬川幸吉コレクション」、「鹿野忠雄アーカイブ」の中に多く見られる。そのうち、台湾出土の先史時代石製装身具類やその関連資料について、1)ベトナム北部先史時代・中国新石器・青銅器時代・日本列島古墳時代における玉器製作遺跡との比較研究からの視点、2)東南アジア先史交易ネットワーク論からの視点、3)東南アジア先史文化に特徴的な耳飾の系譜論的研究からの視点、4)鉱物学的分析による原産地推定研究からの視点、という4つの視点から、それぞれに長けたメンバーで構成されるグループで研究を行っている。本研究は、国立民族学博物館、台湾中央研究院の歴史語言研究所・地球科学研究所の協力を得ながら進めている。